そろそろオリンピックも始まることだし、芥川賞の本とかと並べて陳列しても良いぐらいだし、なんならこの本に芥川賞を与えてもいい気がしますが、本屋に行ってもイマイチそういうテンションじゃなさそうなので紹介します。
全ての人にオススメの一冊と言いたいところですが、技術書にしても受験生の問題集にしても一定のレベルに向けて書かれた物が多く、この本も全くラグビーのことを知らない人が読んで理解できるかというとそうでもないという話からしたいと思います。
そもそもタイトルに「研究」と付いてる時点である程度のマニアを対象にしていそうだし、著者野澤武史というところから見てもそっち寄りの本にしてくれた方が嬉しいです。
じゃあどんな人を対象にした本かと言うと、冒頭の用語集を見ればわかりやすい気がします。
例えば
プッシュアウト
ディフェンスにおいて、内から外に相手を追いつめること。
ここで「内」とか「外」の意味がわからないとこの本を読むのは疲れると思います。
用語説明の部分が共有されてる前提の言葉と考えていいので、立ち読みして用語説明を理解できるかどうかをこの本に向いてるかどうかのものさしにしましょう。
(ちなみにブレイクダウン、スクラム、ラインアウトに近い場所を内、遠い場所を外と言います)
あと、序盤は15人制(ユニオン)との比較でセブンズを語っておられるので、15人制のラグビーをあんまり見たことがない人も厳しいかもしれません。
恐らくマス層はJSPORTSでよくラグビー見てる人とかラグビーマガジンを毎月読んでるような人だと思います。
それでも本文中には()を使って用語解説をしたりと、多くの人に配慮しようとした痕跡は見られるので、わからないことがあったらその都度調べるみたいなことをすれば理解はできるかと。
一番いいのは7人制のラグビーの試合を何試合か見てみることで、見て疑問に感じたことなど覚えておくとこの本でだいたい答えてくれると思います。
ラグビーをよく見ている人なら野澤さんが書いたということを知らなくても野澤さんが書いたということがわかるぐらい野澤さんの作家性が全面に出てる感じで、それが解説本には非常に適していてわかりやすいです。
野澤さんの作家性の一つにデータに基づく分析というのがありまして、解説とかでも「ラインアウトからのトライが○パーセント」みたいな事を聞いたことがあると思います。
それが15人制とセブンズの比較ではわかりやすく、例えばラックが一つもないトライは15人制だと20パーセントで、7人制だと全体の2/3とか、そういう話が書いてます。
セブンズは時間が短いので盛り上がりポイントを理解しておくことは非常に大事です。
他にもセブンズを見ててなんでこんなことするの?とか思うようなこととか広く解説されてて、個人的には〝見殺しプレー〟は知らなかったので参考になりました。
見ててなんでこんなことするの?って事が多いと楽しめませんが、逆に知ってれば戦略の一部として見れるので全然見た時の印象が違います。
まあでもこの本の一番の読みどころは対談コーナーですね。
日本代表の瀬川ヘッドコーチ、GMの岩渕健輔さん、追手門大学女子ラグビー部監督の後藤翔太さん、セブンズユースアカデミーの坂本幸司さんの4名とそれぞれ対談されてるのですが、瀬川さんには代表の話、岩渕さんにはマネージメントの話、後藤さんとはディープな戦術トーク、坂本さんとはコーチング論みたいな感じで誰と何の話をするべきかみたいなことをちゃんと意識して喋られている感じがいいです。
用意した質問をしていくだけじゃなく、広がりそうな話題は掘り下げていくという感じなんで、インタビューとしても読み応えがありますし、アンストラクチャーな感じがとても野澤さんらしくて良いですね。
野澤さんらしいと言えば、野澤さんの暑苦しい感じとかも滲み出ていて楽しいです。
野澤さんって戦術の話してる時も楽しそうだけど、派手なクラッシュとかブレイクダウンでのゴタゴタで狂ったようにテンション上がって初めてラグビー見た人みたいに「うおーーーーーー」とか叫ぶのが本当に信頼できる人で、この本もうおーーーーー感に満ちていて楽しく読み終えました。
読んでる間は野澤さんとワンブイワンで対話しているかのような気分になれるこの本、おすすめです。